午前5時。
沈殿していた夜がその底から澄みはじめる時刻。
白い枕に頭を沈めていた女は人形のように目をあく。
いつも。
人形のようにメカニカルに目をさます。
もしくはひとつの夢からもうひとつの夢の世界へ浮かび出てくる。
サイドテイブルの上にある黒い目覚まし時計は鳴らない。
こわれたまま15年もたっていたから。
どこにも本当の現実などはないことを知っていたから。
だから女の瞳孔はいつも緩慢にひらいた。
ふたたび閉じられて小さなブラックホールになる時にはいそぎんちゃくの収縮を思わせた。
女は過去に棲みついていた。
過去の深みに棲息していた。
深海魚のように。
深海魚みたいに盲目のまま孤独の底でじっと過去の水圧に耐えている。
香月葉子 詩集『水性都市』より抜粋
from a collection of poems written between 1987 and 1989 | Chicago
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