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  • 執筆者の写真香月葉子

アメリカの白黒思考とメディアの役割 | 「こちら側vsあちら側」思考が見えなくさせるもの

更新日:6月14日


たとえばメタ社vsアップル社という図式など…

 アップル社のWWDC23が開催されるほんの数日前の2023年6月2日に、メタ社(元フェイスブック社)にとっては第3回目となる『Meta Quest Gaming Showcase(メタクエスト・ゲーミング・ショーケース)』が開催されました。


 その日にむけて、アメリカの主要メディアでは、Meta社(元Facebook社)のCEOマーク・ザッカーバーグとApple社のCEOティム・クックとの熾烈なライバル関係をとりあげることが、ひとつのHype(ハイプ:あおり)になっていました。


 メタvsアップル、という図式です。

マーク・ザッカーバーグとティム・クックの写真
メタ社CEOマーク・ザッカーバーグとアップル社CEOティム・クック

 もちろん、両社からのスポンサーシップ(経済支援)によって成り立っているメジャー・メディアなのですから、それはとうぜんのことだとおもいます。


 それに、アメリカの主要メディアは、もともと経済波及効果をもたらすための役割を担うために生まれたものなので、企業のお抱えでもある広告代理店を後方から支援するのは大切な業務のひとつでしょうし、この経済中心の社会に大きく貢献していることはまちがいありません。


 ただし、そのせいで、「民主主義をうたっている国々において、その国民のひとりびとりが正しい判断を下して責任のある行動をとるための手助けとなる真実の情報を提供するための役割をになうもの」という本来のジャーナリズムの目的から、ときに外れてしまうのもしかたのないことかもしれませんね。



こちら側かあちら側かの米国社会

 ニューヨークのマディソン街(Madison Avenue)はアメリカの大手広告代理店が軒をつらねているスポットとして有名です。


 そのなかでも、アメリカのメディア文化の動向を仕切っているヤング&ルビカムやオムニコムグループの子会社BBDOなどは、カント的な二元論(Kantian Dualism)でひとびとの注目をあつめる戦略を好む傾向があるようです。


 さきほど述べた「メタvsアップル」もそうですけれど、たとえば「マクドナルドvsバーガーキング」とか「コカ・コーラvsペプシ」とか「ナイキvsリーボック」とか「アメリカvsロシア」や「アメリカvs中国」などはよく取りあげられる例です。


 なにもかもを、敵か味方か、悪か善か、闇か光か、と二極化させて考えるやりかたです。


 ちがう角度からものごとを見る必要にせまられるような問題提議はあまり好まれません。


 それに、ある問題について、自分でリサーチするような時間をもてるような時代ではありませんので、この世の中でいま何が起こっていて、どうしてそうなのかを知りたいときには、どうしても主要メディアのニュースや、検索をかけたときに上位にくるようなサイトや、「専門家」や「有識人」といわれる方々の意見にたよるしかないのはとうぜんかもしれません。


 たとえば「敵か見方か」という二極化について考えてみますと、米国が戦争を始めるときには、国内で戦争に反対している人々の意見をおさえこむために、アメリカの大統領や連邦上院議員たちにつづいて、「専門家」や「有識人」だけではなく、主要メディアのニュースキャスタなどもが、くりかえし、かならずといってよいほど使う決まり言葉(クリシェ)を耳にすることができます。


 あなたは味方(みかた)なの? それとも敵方(てきがた)なの?

 Are you one of us, or Are you one of them?


 つまり、質問そのものが「これかあれか」の選択肢だけでなりたっていますので、「YesもしくはNo」という答え方しかできないようになっていますし、異なる角度からの見方はおさえこまれてしまいます。


 なぜ、どういう理由で戦争をはじめなければいけなかったの? どういう歴史のいきさつがあって、こういうところまで来てしまったの? 平和的な解決の方法にはどんなものがあるの? 戦争を避けるために必要な手段として国はそれまでどのような努力をしてきたの? この戦争でだれが得をするの?


 このような質問は一瞬にして吹き消されてしまいます。


 なぜか古代ギリシャの悲劇詩人のひとりアイスキュロスが語ったとされることばを思い出さずにはいられません。そのことばをカリフォルニア州知事と連邦上院議員をつとめたハイラム・ジョンソン氏(1866-1945)も伝えています。それは『戦争がはじまったときに最初に犠牲になるのは「真実」なのです』(The first casualty, when war comes, is truth)という名言でした。



ブラウナー教授の教え

 このような白黒思考について、カリフォルニア大学バークレー校で聴講生をしていた1985年のころ、社会学者のロバート・ブラウナー教授が、黒人差別の歴史をあつかった授業のなかで、つぎのように話しておられました。

ロバート・ブラウナー教授の白黒写真
故ロバート・ブラウナー名誉教授(Professor Emeritus Robert Blauner)

 この広告戦略の底にひそんでいるのは「共和党vs民主党」や「保守派vsリベラル派」という2元論でアメリカの国民を2派に分け、おたがいに反目させるという目的をふくんでいるのです、と。


 こちら側かあちら側か、それ以外に選択肢はない、とおもわせることで、アメリカの政治・経済・メディアそのものを手中におさめている少数のひとたち、つまり莫大な富を占有しているひとたちへ、国民の不満や批判の矛先(ほこさき)が向かないようにすることに成功してきたのだ、とおっしゃっていました。


 なぜなら、彼らはマクドナルドとバーガーキング両社だけではなく、コカ・コーラやペプシなど、ほとんどの大企業の大株主であり、また同時に、共和党と民主党両党の議員たち(セネター:sanator)に対して、毎年、ほとんど同額の政治献金をしている人たちでもあります。


ペプシコーラとコカコーラの販売機がならんでいる写真
ペプシコーラとコカコーラの販売機

 つまり、政治家にとっては命綱でもある選挙・政治資金を提供してくれる存在(献金者:donor)として、政治家たちを巧みにあやつりながら、自分たちが所有するグローバル企業に都合の良い法律を作らせることで、トップ1%の人間たちがお金を吸いあげることのできる現状の経済システムを維持しているのです。


 ですから、わが国アメリカの大手メディアによって、いっけん両党の意見が真っ向から対立しているかのようなニュースを目にしたときは、たんなる『茶番劇(Political Theater:ポリティカルシアター)』だと理解したほうがわかりやすいでしょう。


 統治しているひとたち(rulers)にとって、いちばん有効で手っ取り早い戦略は、古代ローマの時代から『Divide and Conquer(ディヴァイド・エンド・コンカー:分割統治)』だったのです。


 もしも国民が一致団結して自分たち統治者に反対しはじめると、一晩で権力の座を追われる可能性があるので、国民それぞれがお互いに敵対するようにクラス意識をすりこみ、さまざまなグループ意識(性別や人種や政党支持や性的趣向などによる)のちがいにしがみつかせて、お互いをライバル視させることが、とても重要になってくるのです、と。


 そうしながら、アメリカは「自由と平等と民主主義」を達成したすばらしい国だ、と喧伝(けんでん/プロパガンダ)して、それがじっさいの現実とはかけはなれた幻想であるのにもかかわらず、圧政を強いることもなく、文化的に国民をコントロールしてきたのです、と教授はおっしゃいました。


 とにかく、かれらがいちばん恐れているのは、単純に頭数の差なのです。支配者というのは歴史をつうじて世界中どこの帝国や国家を見ても同じです。支配する者と支配される者との比率は、歴史を見てもわかるように、たいてい2対98のあたりにおちつきます。ですから、いったん98%のひとびとが怒りをあらわにすると、いくら護衛や傭兵や私兵に守られていたとしても、ほとんど一瞬にしてその体制は瓦解(がかい)してしまうのです。


 国民のデモンストレーションによって、どこかの国王や大統領や国家首脳などが、家族とともにこっそりと国外へ脱出したというニュースは、この授業を受けているきみたちもどこかで見たことがあるはずでしょう。


 それを知っているからこそ、その結果を恐れるからこそ、国民をたがいに反目させることで、自分たちの地位を守りぬいてきたのです。

操り人形と人形師の手指の写真
人形をあやつる者 Puppeteer

 つまり、ブラウナー教授によると、彼ら統治者は国民に植えつけた二極思考によって、いつも『姿の見えない存在』でありつづけることができるのです、ということでした。


 このような白黒思考になれてしまうと、特定のひとたちやグループを「敵」と「味方」に分けることにいそがしくて、自分をふくめたこの全員を支配している人たちがいることに気がつかなくなってしまうのです、とおっしゃっていました。


 目の前の雑兵(ぞうひょう)への怒りと憎しみに盲目となり、彼らに命令を下している将軍の姿が見えなくなってしまうのと同じなのでしょう。



米国IT業界に吹き荒れるリストラの嵐

 このような状況のなかで、みなさんもご存知のように、IT業界の聖地といわれるシリコンバレーでは、昨年2022年からリストラの嵐がとまりません。

シリコンバレーにあるオラクル社の写真
オラクル社のあるシリコンバレーの風景

 メタ社やSONY社の株価を動かしている大口の機関投資家(financier ファイナンシア)たちが、はじめに予想していたほど短期間に大きな利益(配当)を産まなかったことにイラだっているのにちがいない、というのがわたしの受けた印象でした。


 わずか数時間というあいだに何十兆円という資産を動かすことのできる富豪や投資家やヘッジファンドのマネージング会社にとっては、たとえマージン(利鞘:りざや)で稼いだとしても、その額はわたしたちの想像をはるかに超えるものになるはずです。


 そういう機関投資家(financier)や株主(stockholder)のひとたちからしたら、「2年間待ったけれど、メタ社はわれわれに約束していた利益(配当)をもたらさないではないか」と業を煮やし、メディアをあやつってマーク・ザッカーバーグのお尻を叩いたり、「大規模なリストラをおこなって自分たちに利益(配当)をよこさなければ投資から手を引く」とおどしたりしたのでしょう。


 その結果が、今年2023年の5月までにメタ社がおこなった21,000人にもおよぶ社員のリストラ(レイオフ)なのでしょうし、おなじようにAmazonでもテック・ワーカー(大卒技術職)の方たち27,000人以上の大規模な解雇がおこなわれ、Googleは今年の3月までに12,000人をリストラしなければいけなくなったことにもつながっているのでしょう。


 2022年のはじめから今年にかけて、すでにIT関連やハイテク産業部門でのリストラは200,000人を超えています。

a photo of corporate meeting
企業側の説明に耳をかたむける社員の方たち

 じつは、コロナ禍の2年間、ロックダウンによって巣ごもりするしかなかったわたしたちだったのですが、街の中の店舗が消えてゆくなか、インターネットを媒介とするAmazonなどのリーテイラー(小売業者)は大躍進し、メタを筆頭とするVRヘッドセットも売れに売れて、新たに技術者たちを補充しなければいけなくなりました。


 ところが、コロナ禍が終わったとたん、メタの売上は落ち、Googleの広告収入は低迷し、あのAmazonですらもが赤字に転落してしまったために、増やした頭数(あたまかず)をけずらなければいけなくなったのです。


 というのがリストラ(レイオフ)のための表向きの理由になっているようです。


 その陰で、自社の株価をあげてボーナスを増やすため、CEOやエグゼクティヴたちによる自社株買いがすすみ、また、歴史最高と言われる株主にたいする配当金の支払いもつづいています。


 どちらにしても、ビッグテックのGAMA(グーグル・アップル・メタ・アマゾン)が大変なことになっているのはまちがいないでしょう。


 なにしろ、今年にはいって、シリコンバレーの屋台骨(やたいぼね)とも言われるシリコンバレー銀行と、近隣のサンフランシスコに拠点をおくファースト・リパブリック銀行がともに破綻してしまいましたし…。

SiliconValleyBankのロゴ写真
シリコンバレー銀行のロゴ

 このファースト・リパブリック銀行の破綻は、2008年に破綻したリーマン・ブラザーズに次ぐ、史上2番目の規模の銀行破綻となったようです。

First Republic Bankのロゴ写真
ファースト・リパブリック銀行のロゴ

 アメリカの株主資本主義は、東京大学の鈴木宣弘教授がおっしゃった『今だけ、金だけ、自分だけ』の典型的な例のひとつだという方々がいらっしゃいます。


 ある会社が成長していくのを長い目で見つめるというような姿勢はどこにもなく、やることなすことが、すべてラスベガスやモンテカルロの賭博場でギャンブルをしているのと変わらないような市場になっているとおっしゃる方々もいます。


 1980年代のバブル時代に生まれた『カジノ資本主義(Casino Capitalism)』や『縁故資本主義(Crony Capitalism)』いうことばも復活しているようですし…。


 貧困と不正を根絶するための持続的な支援・活動を90カ国以上で展開している団体で、また世界中の経済学者や大学の教授たちのために信頼できる統計結果を発表しつづけている『Oxifam International(オックスファム・インターナショナル)』(Wikipediaの偏りがあらわになっていて興味をひかれる方がおられるかもしれません)が2023年の1月16日に発表した調査結果(レポート)はつぎのようなものでした。


 2020年以降に生み出された42兆ドル相当の新しい富のうち、最も富裕な1%がほぼ3分の2を獲得しました。

 これは世界の人口の99%が手にする富のほぼ2倍の金額です。


 オックスファムの最新レポートが明らかにしたところによると、過去10年間においても、最も富裕な1%は新たに生み出された富の約半分を独占していました。


 また同時に、少なくとも17億人の労働者が賃金を上回るインフレーションが進行している国々に住んでおり、およそ8億2000万人の人々、つまり地球上の10人に1人が飢えています。


 とくに成人女性と少女たちは、ほとんどの場合、得られる食事量がもっともすくなく、しかも、食事を得る順番がいちばん最後になる集団であり、世界の飢えた人口のうちの約60%を占めています。


 世界銀行(The World Bank)によれば、いま、世界的に、第二次世界大戦以来最も格差と貧困が拡大しているということです。


 最も貧しい国々は破産の危機に直面しており、富裕層の債権者に対する債務返済額が医療費の4倍以上に達しています。


 また、世界中に存在する政府のうちの4分の3は、これから先の5年間に7.8兆ドルの経済縮小に伴う公共部門の支出削減を予定しています。

 そのなかには、医療や教育の削減が含まれています。


 このように、ほんのわずかな数の株主(stockholder)や機関投資家(financier)たちの欲(greed)と気まぐれ(whim)によって、原油価格や食料品価格だけではなく、為替レートや各国における課税額、また、大手メディアであつかわれるニュースの内容やソーシャルメディアに流れている情報の検閲(censorship)、そして企業のリストラまでをもふくむ全世界の経済の方向が決められ、ひとびとみんなの生活が影響をこうむっているのが現状だということです。


 この極東のはしっこの島国で暮らしているわたしの日常生活のすみずみまでもが、さらに資産を増やそうという彼らの目的によって翻弄(ほんろう)されてしまうということに、くやしさをおぼえずにはいられません。


 もちろん、メディアによってわたしたちの目にふれる表向きの理由は、たいてい人類全体のことを思いやっているような理想的で感動的な内容のものばかりですけれど、そもそも主要メデイアのほとんどはそういう億万長者たちが所有していますので、陰謀説(conspiracy theory)などをもちだすまでもなく、会社組織などで働いた経験がおありの方たちでしたら、その裏の事情については、容易に察しがつくことだとおもわれます。


 けれども『ローマは1日にして成らず、されど滅亡は1日にして成る』ということばがあるようですし、わたしたちの過去の文物(ぶんぶつ)をふりかえってみますと、昔のひとの残した『おごれる者も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし』ということばもあります。


 アメリカに集中しているとされるケタはずれの財閥(ざいばつ)も、いまの世に栄えて得意になっているかもしれませんが、その栄光はいつまでもつづくものではなくて、時代とひとびとの考え方が変わってしまったあかつきには、まるで春の夜のはかない夢のように、フッと消えてしまうようなものなのかもしれません。


 という、そんな夢を見ては、はぁ〜っとため息をつく、今日このごろです。








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