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ある電脳奴隷の夢 | The Dream of an IT Slave

  • 執筆者の写真: 香月葉子
    香月葉子
  • 2023年3月19日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年1月7日


このごろ

みんながみんな

なにもかも知ってる

と思ってる

て感じてる

ネットは便利だし

指1本で情報の洪水のなかを泳いでるとき

なにもかもにすぐ飽きてしまうのは

しかたのないこと

もう義務のひとつになってるんだから

(ま……そんなもんだよねって)


このごろ

情報はいつでもどこでも手に入るから

ホントのことなんて探す気にはならない

なにをすべきか言われるほうが

うんと楽だし

(ま……そんなもんだよねって)


ree

このごろ

ホントのことにはうんざりしてる

やわらかい微笑をうかべたウソのほうに

甘く抱きしめてくれるウソのほうに

身も心もゆだねたい

ウソは

もう夢と希望の化身みたいになってるから


でも、こんなこと

みんな知ってる

とっくに知ってる

そう思ってる

そう感じてる

(ま……そんなもんだよねって)


わたしたちは

すこし不安げな微笑をうかべた

やさしい

おとなしい

電脳奴隷なのだから


でも、どうしようもない

そうも思ってる

それも知ってる

それは感じてる

(ま……そんなもんだよねって)


わからないのは

いったいいつごろから

こうなってしまったのか

それがわからない


理性の眠りは怪物を生む……

あれはたしかフランシスコ・デ・ゴヤだった?


わたしたちが眠ってる間に

だれかが

わたしたちみんなの歴史を

こっそりと

ごっそり盗んでしまったみたいな

そんな気がする


このごろ

まわりのみんなに従うことは

とても大切だと思ってる

そう感じてる

そう信じてる

(ま……そんなもんだよねって)


ree

このごろ

みんながしてることと

同じことをするのは

ひっそりと自分を消してしまいたいから

そう思ったりもする

そう感じることもある

そう思ってる自分を知ってることが

とても気に入ってると感じることがある


いつも比較的マジメな顔をして

スマホをじっと見つめてる

そんな自分がいることを知ってる

そんな自分を感じてる

そんなわたしのことを

なにもかも知っているだれかが

きっとどこかにいるはずだから

この気持ちをわかってくれるだれかが

どこかにいるはずなのだから

そう思うことがある

そう感じることがある

だからじっとスマホの画面を見つめて

そんな人からのメッセージが届くのを

ひっそりと待ってる

そんなフリをしてる

そんなフリをしてる自分を感じることもある

(ま……そんなもんだよねって)


うんと昔の人たちは

リアルの世界でそんな人たちと出会ったり

リアルの世界でそんな人たちと会話を交わしたり

リアルの世界でそんな人と手をつないだり

そんなことをしていたのかもしれない

そんなふうに思いたい自分がいて

そんなふうに感じたい自分がいて

起きているときも

心がなんども寝返りを打つ

心がなんども寝返りを打つたびに

目を大きく開いたまま悪夢を見ていることに気がついてしまう

そんな自分を知ってる

そんな自分を感じてる

(ま……そんなもんだよねって)


ree

昔の人たちは

リアルの世界での出会いを大切にしていた

そんなふうに思ってる

ほんとうは知らないけど

そんなふうに思ってる

そんなふうに感じてる

でもそれはもう

はるか遠い昔の思い出でしかない

それを知ってる

知ってると思ってる

思ってると感じてる


わたしたちは

すこし不安げな微笑をうかべた

やさしい

おとなしい

電脳奴隷なのだから


わたしたちが

大きく目を見開いたまま

ひっそりと眠ってる間に

だれかがこっそりと

わたしたちの歴史を盗んでしまった

そうにちがいない

そんな感じがする

(ま……そんなもんだよねって)


理性の眠りは怪物を生む……

あれはたしかフランシスコ・デ・ゴヤだった?


聞こえてくるのは

甘くやさしいウソのささやきばかり

だから目を大きくひらいて

こっそりと眠りにつく

(ま……そんなもんだよねって)

だからって

負けたわけじゃない

敗北したわけじゃない

たとえ悪夢を見たとしても

それも夢であることには変わりがないんだから

それも夢のひとつなんだから


それだけはわかってる

そのことは知ってる

そのことを知ってるって感じてる

そう感じてるって信じてる

そう信じてるって思いこんでる

理由はわからないけど


わたしたちが眠ってる間に

だれかが

なにかを

盗んだのにちがいない

災いが起こるたびに

だれかが

いつも

こっそりと

わたしたちの歴史を盗んでしまう


そのことに気づいてる

そのことに気づいてることを知ってる

そのことを知ってると思ってる

そう思ってるって感じてる

そう感じてるって信じてる

理由はわからないけど

(ま……そんなもんだよねって)


だからって

わたしたちは負けたわけじゃない

敗北したわけじゃない


パンドラの箱と同じ

たくさんの悪徳と不幸と絶望があふれ出てきたら

希望だって外に出たくなる

そう思ってる

そう信じてる

そう感じてる

(ま……そんなもんだよねって)

ree




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