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ベネズエラ大統領夫妻拉致事件の裏 | アメリカという名の戦争職人その素顔

  • 執筆者の写真: 香月葉子
    香月葉子
  • 6 日前
  • 読了時間: 27分

更新日:9 時間前




【国家強奪】

 アメリカが、今年2026年1月3日に、ベネズエラという国家そのものを強引に奪いました。

 首都カラカス全体を停電させたあと、主要軍事施設などをつぎからつぎへと空爆し、アメリカ特殊部隊のデルタフォースがマドゥロ大統領夫妻を拘束してニューヨークへ移送したのです。

 つまり主権国家ベネズエラの指導者とその妻を誘拐したわけです。

 しかも「麻薬犯罪者」という理由で。


 あっという間の出来事でした。


 この「空爆」ということばは明瞭ではなくて、はじめてニュースが入ってきたときにはベネズエラで活動していたアメリカ中央情報局(CIA)の非公認エージェントによる内部からの破壊工作か、もしくベネズエラの海域に待機していたアメリカ海軍の駆逐艦か巡洋艦から発射されたミサイルによるものとみられていましたが、現在ではF-18やF-35などの戦闘機およびB-1爆撃機による攻撃だと判明しています。


ベネズエラの首都カラカス
ベネズエラの首都カラカス

 これまでの成り行きは追いかけていたので、もうそろそろアメリカが行動に出てくるかな、とはおもっていたのですけれど、まさか新年早々に実行するだなんて、ほんとうにびっくりさせられました。


 しかも、あきれかえるほど迅速な作戦行動でした。

 しかも、あきれかえるほど大っぴらな違法行為でした。


 この軍事行動が成功したのは、米国の軍関係者や元情報機関で働いていた方たちがおっしゃるとおり CIA による秘密裏の活動によるものが大きいということです。


 ベネズエラ側からの抵抗はほとんどありませんでした。

 全軍がなにもせずに静まり返った(スタンド・ダウン)状態だったそうです。


 つまりハリウッド映画でもおなじみの『秘密工作』(covert operations)や『隠密作戦』の成果だとみられています。


 おそらく2024年の12月にシリアのアサド政権を崩壊させたときとおなじように、ニコラス・マドゥロ大統領の側近をふくめ、ベネズエラの軍部だけではなく国民議会議員や経済団体などを仕切っておられる中心人物と関係者たちを前もって抱きこんでいたことはまちがいないとも言われています。


マドゥロ大統領
マドゥロ大統領

 CIA の根回しはなかなかのものですね。

 お金の力は偉大です。

 いえ、「ワイロの力は強大」というべきなのかもしれません。


 いま、首都のカラカスは「しぃ~ん」と静まり返り、明かりの消えた街路にはだれも歩いていないのだそうです。

 アメリカによる首都停電、主要施設の破壊、そして迅速な大統領夫妻の拘束・拉致をまのあたりにして、ベネズエラのひとびとは息をのみ、あるいは息をひそめ、先の見えないベネズエラの未来にたいして不安をいだきながら、ひっそりとひざを折って、この成りゆきを見守っているものと考えられます。



【レジーム・チェンジ】

 他のエッセイでも述べてきたように、アメリカを運営している方たちは自分たちの利益を守り覇権を維持するために、他国の政権をむりやり交代させてきました。

 国民の選んだ指導者をひっこぬいて、かわりにアメリカ寄りの指導者をすえるのです。


 イラク・シリア・レバノン・イエメン・アフガニスタンなどがそうでした。


 もっと以前にさかのぼれば、イランやエジプトもそうでした。


 また、直接的な支配か間接的な支配かのいずれかを問わずに、もっと広くゆるくとらえれば、EU 諸国や東南アジア、そして韓国や日本をふくめて、ようするにアメリカの覇権下にある「西側諸国」と呼ばれている国々のほとんどの政権は、あくまでもアメリカを運営している方たちの要望をうけいれ認める体裁を保っていなければ存続できません。

 そうしなければその政権の指導者はクビにされてしまいます。


 レジーム・チェンジ(首のすげかえ)と言われているものです。


 大学の先生方の研究によると、1945年以降、アメリカは100を超える政権交代をおこなってきたとされています。


 古代ローマ帝国においても軍部の反乱・市民戦争・暗殺・クーデターなどで政権が交代することがたびたびでしたけれど、それはあくまでもローマ帝国の内がわから起こったことであって他国がそうさせたわけではありません。


 けれどもアメリカの場合はちがいます。


「内政干渉」ということばが無意味に感じられるほどの違法政策をくりかえしながら、アメリカは自分の傘下にはいっている国々に自分たちに都合のよい政府をおき、表向きには見えない支配をつづけてきました。


 相手が「主権国」だと主張しても気にとめたりはしません。

「主権国? だからどうなの?」といった感じで強引に実行してきました。


 ロシアや中国についてもおなじことが言えるでしょう。

 アメリカの支配層(the transnational capitalist class)とたいして変わらないことをロシアや中国を運営している方たちもおこなってきたはずです。


 ヒトの歴史が証明しているように、もともと大国とはそういうものですし、そんな大国を牛耳っている方たちは、そういう心根をもっているからこそ、そこまで登りつめることができたのでしょうから。


 ただ、21世紀初頭の現在、1991年のソ連崩壊からわずか35年のあいだに「帝国」(エンパイア)と呼べるほどの強大な経済力と支配力をもつにいたった国はアメリカだけです。

 しかも世界の45の国と地域に500以上の海外軍事基地をもっている国はほかにありません。

 いまのロシアや中国は「帝国」と呼べるようなものではありません。

 アメリカほど広範囲におよぶ覇権をもっていないからです。


 そんなアメリカの機嫌をそこねた元首・指導者は、メディアをつかったプロパガンダによって信頼性を損なわれ、経済制裁などによって地位とお金とコネクションをうばわれ、操作された反政府運動やクーデターや暗殺による政権交代ですみやかに権力の座からひきずりおろされるか、ひっそりと姿を消してしまうので、ある意味、アメリカのやり口はとてもわかりやすい構図をしているかもしれません。


 つまり、それぞれの国の指導者やエリートにかぎっていえば、彼らがどんな主義をかかげて出馬してきたのか、もしくはどのような立ち位置で政治にのぞんでいるのか、など表向きの理由はどうでもいいのです。


 指導者の方たちは、あくまでもアメリカとのやりとりによって自分自身の経済的・政治的な利益と地位と安定を得ているのですから、アメリカの支配層の意向にもとづいてそれぞれの国を運営していかなければいけないのはとうぜんなのです。


 それが現実なのだし、他に道を見つけないかぎり、いまのところ、それはそれでしかたがありません。



【追われた富裕層】

 ところで、第一次トランプ政権のときに、ベネズエラにクーデターを起こしてマドゥロ政権を打倒する計画がたてられ、おなじように CIA が暗躍した事件がありましたが、おぼえていらっしゃるでしょうか。

 2019年から2020年にかけての出来事です。


 マドゥロ大統領を排除し、かわりにベネズエラの国民のほとんどに知られていなかったフアン・グアイドという若手議員を大統領にすえるための作戦でした。


 もとはといえば、チャベス政権(1999年~2013年)が樹立したさいにアメリカへ脱出したベネズエラの資産家や荘園主や企業家などがトランプ政権とともにくわだてていた計画です。

 そんな国外脱出組の富裕層たち(エクスパトリオット)から白羽の矢をたてられて推された人物がフアン・グアイド議員でした。


フアン・グアイド議員
フアン・グアイド議員

 ところで、マドゥロ大統領が尊敬していたチャベス大統領は、かなり個性的なキャラクタで国際社会においても人気者だったのに、なにが理由でアメリカとの仲を悪化させてしまったのでしょう。


 それはベネズエラの土地に眠っている確認埋蔵量だけで世界第1位を誇るといわれる石油が原因でした。


 自然が生んだその富は、長いあいだアメリカのロックフェラー家が所有するエクソン・モービル・シェブロンの3社がコントロールしていました。


 ところが、その利益のほとんどをアメリカに吸いあげられて自国にはなにも残らないことに憤慨したチャベス大統領は「わが国の土地にあるものはベネズエラのものなのだから石油は国有化する。そうすることで生み出された利益はわが国民全員でシェアする」という貧困撲滅政策を発表したのです。


 そして、じっさいにそれを実行し、就任したときには国民の50%が貧困に苦しんでいたのにもかかわらず、彼の政権期間中には貧困率が30%にまで落ち、数年後にはさらに25%まで落とすことにも成功しました。


 ちなみにこの数字は国連のレポートによるものです。



【秘密作戦】

 ところが、チャベス政権が社会主義をかかげて貧乏なひとびとを根絶するという政策をかかげたために不利益をこうむった方たちがいます。


 ベネズエラの人口のトップ1.5%にあたる富裕層の方々です。


 つまりアメリカのグローバル石油メジャー3社とその関連企業とのつながりで富をきずいていった方たちでした。


 また、彼らのほとんどは、家系においてもベネズエラの支配層であり各都市や各地域の統治者(スペインに祖先をもつ名家)だった方たちなのですが、彼らは逃げていった先の米国でベネズエラをとりもどすための組織づくりをはじめました。


「われわれ富裕層から国を奪った男チャベスをゆるすわけにはいかない」という立ち位置でした。


 1959年にカストロ政権が樹立したさいにキューバから出ていったお金持ちや大昔からの地主たちがフロリダに移り住んでアメリカの資本家と手をむすび、社会主義をかかげるカストロ政権にたいして半世紀にもわたって経済制裁をつづけながら、カストロ政権打倒にエネルギーをついやしてきたのとほとんどおなじ構図です。


 アメリカへ逃げた富裕層の方たちは、アメリカの支配層と手をとりあって、チャベス大統領を「独裁者」と呼び、「人権侵害を増加させた犯罪者」とし、「人民の敵」であり「民主主義の弾圧者」として非難しはじめました。


 そしてアメリカ国内で生産されるシェールオイルの生産量を増すことで原油価格を下落させ、ベネズエラの経済を悪化させながら、海外資産の凍結などさらなる経済制裁によって外貨収入への道をとざし、ベネズエラにハイパーインフレをもたらし、経済破綻させることで、ひとつの国家を崩壊の危機に追いこんだのです。


 とうぜんのように、ベネズエラのひとびとは職を失い、ハイパーインフレのために一時は赤ん坊に飲ませるミルクすら高額で買えなくなるような物価情勢のなかで、その暮らしはどんどん苦しくなりました。


 そして世界の大手メディアはチャベス大統領の経済政策は「資源ナショナリズム」であり「大失敗」であり「貧困層中心」の経済政策はけっきょく持続不可能であるなどと非難しました。


故チャベス大統領
故チャベス大統領

 ではサブプライムによるバブル経済を起こして、自分たち富裕層は稼げるだけ稼いでおいて、いったんそれが破裂したときの損失と損害は国民に投げやり、経済不況のせいで紙クズ同然の安値になった会社の株を買いあさりながら、ぼくたち大手投資銀行をつぶしたりしたらみんな一緒に地獄行きになっちゃうよ、という「大きすぎてつぶせない」(too big to fail)政策によって国民の税金で救ってもらい、ひとりの銀行家もトレーダーも罪に問われることなく税金による救済措置に頼ることで、ふたたびバブル経済とその崩壊をなんどもくりかえしながら上位2%だけがどんどん富を吸いあげていく国ってどうなの?


 なんてたずねるのは野暮というものです。

 なにしろアメリカは世界の頂点に立つ資本主義と民主主義の守護人なのですから。


 とにかく、そんなベネズエラの富裕層とアメリカの支配層の方たちとが手をつないで、こんどは、チャベス大統領の意思をうけついだ政策をおしすすめていたマドゥロ大統領をひきずりおろすための計画を2019年の半ばから実行に移そうとしていたのです。


 秘密作戦を練って、じっさいに反マドゥロ派の軍人たちを勧誘し、クーデターをくわだてさせたりもしました。


 シルバーコープ USAという民間軍事会社(CIAによって運営されています)による軍事クーデターがきっかけでした。

 それによってベネズエラをひっくり返せるとおもっていたようです。


 ところが、マドゥロ大統領をささえる軍部と大多数の国民による世論の抵抗をうけて、その作戦は失敗におわります。

 ほんとうにことごとく失敗におわりました。


 ベネズエラのひとびとから「アメリカに帰れ」という怒声をあびせかけられているフアン・グアイドのビデオ映像を YouTube で見たことがあります。


 また国境近くの橋でクーデターをくわだてたひとびとがすごすごと引き返してゆくビデオ映像も YouTube などで見ることができるはずです。


 ようするに第一回目の政権交代劇は「根回し」が足りなかったのです。



【露骨な欲望】

 そのクーデター未遂事件にいたるまで、トランプ大統領は国際社会と西側メディアにたいして怒涛のようなプロパガンダをくりひろげ、マドゥロ大統領の「独裁政権」をたおさなければ西側諸国の平和と安定と民主主義は守れないと主張しつづけていました。

「マドゥロ大統領は『独裁者』であり、国民にたいして『人権侵害の罪』を犯している。いや、それだけではない。彼は公正であるべき選挙制度を不正によって溶かした『反民主主義的な大統領』でもある」

 そんな非難でした。


 いま、この部分をお読みになったとたん、なんとなくプーチン大統領をおもいだしてしまった方もおられるのでは?


 ロシアがウクライナへ侵攻したときの西側メディアの反応をおぼえておられますか?


 プーチン大統領という「独裁者」がひきいるロシアは、小国ウクライナの主権を犯し、ウクライナのひとびとの「人権を侵害」した。

 もしもロシアが勝利するようなことになったら、「狂人」プーチン大統領は、おそらくそのままヨーロッパにも攻め入ってくるだろうから、そうなったときには民主主義そのものが崩壊の危機にさらされるだろう。


 どの記事へ目をむけてもみんながみんなそんな感じでした。


 ロシアが侵攻しなければいけなかった理由について教えてくれる大手メディアはほとんど見当たらなかったとおもいます。


 なぜなら、戦争はいつもそこにいたるまでの歴史的な「いきさつ」を無視することで始められるからです。


 ところで、ベネズエラにおけるクーデターが失敗に終わったあと、TVインタビューのなかでトランプ大統領はポロリと本心をもらしていました。

「われわれが望んでいるのはベネズエラの石油だ。それをこちらによこさない限り、われわれはあきらめない。かならずマドゥロ政権を打倒する」

 それが2020年のことです。


 あれから5年の歳月を経て、トランプ大統領は、彼の第二次トランプ政権を経済的に支えているロックフェラー財団と米国最大のイスラエル・ロビー(AIPAC)、そしてその他もろもろの献金者の意向をうけいれるかたちで、念願でもあったマドゥロ政権打倒を成功させたわけです。


 そして今回は、首都カラカスの電源を落とすと同時に空爆し、マドゥロ大統領と夫人を拘束したうえにニューヨークへ移送するというような、国際社会の常識ではまず考えられないような違法行為をあえて犯したのでした。



【ならず者国家】

 元CIA のアナリストによりますと、1990年にパナマのノリエガ将軍を「麻薬取引罪」で拘束したのが36年前の同じ1月3日だったことから、まさにノリエガ将軍の拘束・逮捕劇を再現したのはまちがいないということです。


 ただ、あの当時との大きなちがいは、アメリカ政府が今回の軍事作戦をとおして自国の憲法を投げすてたという事実だとおもいます。


 アメリカが国際法を無視する「ならず者」になった日でもありました。


 そういう意味でも2026年1月3日は記憶にきざんでおかなければいけないのかもしれません。


アメリカの麻薬取締局の局員に拘束されたノリエガ将軍
アメリカの麻薬取締局の局員に拘束されたノリエガ将軍

 いままで書いてきたようにアメリカが「いじめっ子」(bully)であり「戦争職人」(warmonger)なのはまちがいありません。


 「自由」と「平等」のためだとか「人権」のためだとか「民主主義」のためだとか、さまざまなキレイごとをならべて戦争をはじめる理由にしてきましたが、けっきょくのところは他国の資源を力づくで奪うのが目的であるということを、これほど大っぴらに、隠すこともなく世界に示したのは今回がはじめてではないでしょうか。


 なにしろ『ベネズエラ石油強奪作戦』をみんなが見ている目の前で平然と実行にうつしてみせたのですから。

 ほとんどハリウッドB級アクション映画を地でいくノリです。

 それによって、アメリカの素顔と戦争職人ぶりが、今回、わたしたちの目前で証明されたのです。


 いままででしたら、戦争をはじめるときにはいちおう偽旗作戦(フォールス・フラッグ)をおこなったり、捏造した虚偽報道(フェイクニュース)をきっかけにして世論をあおったり、アメリカの議会において議員たちを説得したりする努力もいとわなかったのですが、ついに「そんなめんどうくさいことはもうやめよう」という姿勢で法律を踏みにじってしまいました。


① やった人の勝ち。

② 事実さえつくってしまえば批判することすら無意味。

③ いまさら何を言ってもおそすぎる。


 この論法です。


 ところで、2001年の9月11日にニューヨーク市のツインタワーに旅客機が激突し、アメリカ同時多発テロ事件として歴史にきざまれることになりました。


 サウジアラビアの富豪の家に生まれたお坊ちゃまくんウサーマ・ビン・ラーディンがひきいる国際テロ組織アルカーイダによる犯行だとされたのですが、それ以降は、アメリカ政府の方針や意向にしたがわない「邪魔者」を排除するときにひきあいにだされる理由づけがたったひとつになりました。


 すべては「国家安全保障」(ナショナル・セキュリティ)にかかわる問題だから、という理由づけで済むようになったのです。


 かわりに「自由」や「平等」や「人権」や「民主主義」などは時代おくれの概念であり、理由づけには弱いものだとみなされるようになりました。


 ベネズエラはアメリカにコカインを輸出しているとんでもない国であり、アメリカの国民を麻薬づけにしようとしている悪の国でもある。

 その国の元首が采配している麻薬取引はアメリカの「国家安全保障」にかかわる重大な問題だ。

 それが今回の軍事行動を起こすための理由でした。


 けれども、ちょっとお調べになっただけでおわかりになりますが、アメリカの麻薬取締局(DEA)が一昨年まで提出していたレポートでは、ベネズエラが麻薬取引に関与していたことはどこにも記載されていません。


 またアメリカ連邦議会所属の国立図書館のウェブサイトから「Latin American narcotics connection, maritime trafficking」(ラテンアメリカにおける麻薬取引、海上密売ルート)でお調べになったらアメリカ政府そのものが制作した資料においてもベネズエラが麻薬輸出国でないことがはっきりと証明されているとおもいます。


 麻薬輸出国で知られているのはコロンビアとメキシコですし、麻薬カルテルはその2国が生みの親です。


ラテンアメリカにおける麻薬取引、海上密売ルート
ラテンアメリカにおける麻薬取引、海上密売ルート

 このあいだ、なにげなくアメリカの大手ニュース雑誌の記事を見ていたら、ある記者(日本語にも翻訳されている有名誌です)がベネズエラのマドゥロ大統領は麻薬カルテルの大手シナロア・カルテルを仕切っている影の人物である、などという大嘘が書かれていて、あきれかえったことをおぼえています。


 一般の読者はそんなこと知らないし、また調べようともしないとタカをくくっていたのでしょうか。


 ベネズエラにはそのような麻薬カルテルは存在しません。


 しかもシナロア・カルテルはメキシコでも超有名な大手麻薬カルテルです。


 ウソを書くならもっと上手なウソを書いてほしかった。


 でなければ、シンプルに事実と真実を述べるほうが楽だったはずです。


 とはいっても、編集長よりもさらに上からの指示、もしくは、みずからその指示を予想した上で「守備範囲」を決めて書いているのだとしたら、それはそれでしかたがなかったのかもしれませんけれど。


 ためしに「メキシコの麻薬カルテル」でググってみてください。

 つぎに「ベネズエラの麻薬カルテル」で。


 そしてもし「ベネズエラの麻薬カルテル」に関連したなんらかの記事が出てきたり、ベネズエラの麻薬取引の歴史が述べられているようなものが目にふれたときには、その記事がいつごろ書かれてアップロードされたものなのかをチェックしてみてくださいね。



【地下資源】

 じつのところ、アメリカ本国の大手メディアですら、ベネズエラが麻薬輸出国ではないことは明らかだとみていましたし、マドゥロ大統領が麻薬犯罪者だというレッテルには疑問符を投げかけてあまり乗り気ではなかったというのが事実です。


 元アメリカ麻薬取締局ではたらいていた方たちだけではなく、他国の情報局につとめている専門家ですらマドゥロ大統領にたいするクレームを笑い飛ばすような状況でした。


 でも、もう「やっちゃった」わけです。

 先ほども言ったように「だから、いまさら、何を言ってんの?」といった段階にきてしまったわけです。

 一瞬に。

 もうあとには引き返せません。

 しかも世界にむかって「ええっと、これから先は、アメリカがベネズエラを運営するからね」と宣言してしまったのですから。


 ベネズエラの国民など眼中にありません。

 そんなことはどうでもいいんです。

 石油ですよ、石油。


 ロックフェラー財団と英国銀行とイスラエル・ロビーにはもっともっとお金が必要なんです。

 さらに言えば、そんな3社の主要株主たちはさらなる富を必要としているのです。


 なんとか巨額のお金を生み出してくれないと、ウクライナ戦争に勝って150兆円規模の地下資源を手にできると踏んでいた巨大資産運営会社ブラックロックに財産をあずけている西側諸国の超富裕層たちは困っちゃいますものね。

 せっかくウクライナの肥沃な土地を買い占めていたのに、ロシアの勝利はほぼ確実になってしまったし…。

 そうなると、あの地下資源は…。


 なにがなんでもブリックス諸国(ロシア・中国・インド・ブラジル・南アフリカなど)を運営している連中に利益をもっていかれるのだけは阻止しなければ。

 それだけはぜったいにゆるさない。

 アメリカの支配層に属している方々はそのようにお考えなのかもしれません。


 そういえば、たしか巨大なAIデータセンターをつくって人工汎用知能をつくるための『AIインフラ投資』に150兆円が必要だとおっしゃってましたけど「それってウクライナの地下資源は150兆円規模っていう数字とぴったり合いすぎるんだけど」だなんて言ったら、このわたしも「陰謀論者」の仲間入りをさせてもらえるのでしょうか?


 あっちがダメならこっちがあるさ。


 投資家たちが手をひいたらAIバブルなどは一瞬にして破裂します。


 もとはといえば、イーロン・マスクやサム・アルトマン、ピター・ティール、Amazonのジェフ・ベゾスやメタのザッカーバーグ、そしてGoogleのCEOなどを支えているのは、彼らのようなコンピュータ・オタクに投資してきた古くからの財閥や機関投資家などであって、彼ら自身がみずからの腕力でそこまでのぼりつめたわけではありませんから。


 ITバブルが崩壊した1990年代後半に彼ら(とくにイーロン・マスクとザッカーバーグとベゾス)が投資家たちへ送信した「手を引くのはどうかもうしばらく待ってください。どうか希望をすてないでください。かならずわたしたちが成功する時がおとずれます」という内容のメールが掲載されている記事をお調べになったらおわかりになるとおもいます。


 現在、現実にはなんの利益も生み出していない OpenAI へのデータセンター構築に巨額の投資をしてバブルを過熱化しています。

 それが破裂したときには、リーマンショックのときとおなじように「大きすぎてつぶせない」(too big to fail)という理屈をこねて税金による救済措置を申したてるつもりなのでしょう。

 なにしろサム・アルトマンは「この計画が頓挫することがあったら、そのときは救済措置をとってもらいたい」といまから政府に懇願しているくらいですから。



【憲法放棄】

 とにかくトランプ政権はまずアメリカ憲法第1条と2条を無視しました。

 とくに1973年の戦争権限法(War Powers Act)では、合衆国大統領の戦争に関する権限がどこまであってどうなっているのかを明らかにしています。

 ベトナム戦争の反省から生まれた法律でした。


① それによりますと「あの国と戦争をはじめまぁ~す」というときには、いちおう議会へ戦争をする理由を説明する努力をしなければいけません。


② またじっさいに軍隊をつかって戦鬪をはじめたときには、それから48時間以内に議会へ「あの国と戦争をはじめちゃいました」と報告する義務があります。


③ 議会そのものが「あの国」との戦争を宣言し、継続してもよいという承認を出さないかぎり60日以内に軍隊をひきあげなければいけません。


 この3点なのですけれど、アメリカ同時多発テロ事件のさいのG・W・ブッシュ政権もそうでしたけれど、その法律をきちんと守ろうとする大統領は21世紀に入ってからはほとんどいませんでした。

 いまでは大統領の意思と権限ひとつで「はい、戦争」です。

 しかも議会から『宣戦布告』を得る必要があるという項目も無視。

 またアメリカは軍隊をうごかす前に相手の国に『宣戦布告』をする義務があるというのも無視。

 さらに相手国からなんらかの『攻撃を受けた』という事実がなくてもオーケー。

 それ以上に相手国はアメリカにたいして『脅威』であるという事実がなくてもオーケー。

 もちろん国際法も無視して他国の元首をいきなり拘束・拉致して移送してもオーケー。



【イジメっ子の強がり】

 たとえば日本の高市首相がこんな目にあったらどうでしょう。


「彼女は中国から日本経由でアメリカへ流れてくるフェンタニルの元締めである。そんな彼女がアメリカの国民を死に至らしめているのだ」

 そんなふうにアメリカ政府がいきなりワケのわからない理屈をこねて、高市政権にクレームをいれ、いちおう第七艦隊は配備したが、きみの国にある130ばかりの米軍基地にも指令を与えているのでさからっても無駄である。彼女はわれわれがアメリカの裁判所で裁くつもりだから、おとなしくわれわれに手渡しなさい、と言いながら、世界中の大手メディアをつかって『日本の高市首相はフェンタニルによって巨額の富をきずいている』なんていう大ウソのプロパガンダを流させ、東京湾から八丈島へ向かっていたボートにミサイル攻撃をしかけて乗組員の5人を殺害し、そのビデオを自慢げに世界中に流して「彼らはフェンタニルをハワイへ密輸入しようとしていた」とクレームを入れたので、高市首相が「あれはわが国の漁師たちです。あなたたちに殺された男性たちの家族は胸をしめつけられるような思いで世界に公開されているビデオ映像を見ながら涙を流しつづけています。そもそもあんな小さなボートで国と国のあいだを行き来できるはずはないでしょう?」と抗議しつづけていると、ある日、とつぜん東京全域が停電し、東京湾岸にたちならぶ東京電力の火力発電所がつぎからつぎへと爆破され、パニックにおちいっているうちに首相官邸に米軍精鋭部隊が突入し、高市首相の警護にあたっていた方たち全員が殺害され、いつのまにか首相はニューヨークの重犯罪者用刑務所へ連れていかれてしまった。


 しかも、マドゥロ大統領とおなじように、アメリカが今回の軍事行動をおこす何週間も前から「わたしが麻薬犯罪者というのはなにかの誤解です。とにかくわたしはそちらへ行きますから直に話し合いましょう」と呼びかけていたのにもかかわらず。


アメリカ軍に拉致されたマドゥロ大統領(手錠をかけられ視界を奪われています)
アメリカ軍に拉致されたマドゥロ大統領(手錠をかけられ視界を奪われています)

 こんな非合法的な暴挙に出ているのが現在のアメリカという国なのです。

 というよりも、トランプ大統領を操りながらアメリカを運営している方たちのやり口なのです。


 ついでに言っておくと、この事件を知ったひとびとからロシアのプーチン大統領は、いま、非難されているという情報もはいってきています。


「アメリカとおなじようにウクライナの首都に極超音速の中距離弾道ミサイル『オレシュニク』をぶちこんでゼレンスキーを殺害していればこんなに長く消耗戦をつづけることもいらなかった。この戦争は2年前にあっさり終わっていただろう」


 けれどもプーチン大統領は反論にならない反論で答えています。


「たとえ戦争とはいっても、イスラエルのように女・子供のみさかいなく一般市民をまきぞえにすることは避けなければいけない。ジュネーブ条約をはじめとしてさまざまな協定がある。だからこそわれわれはウクライナのインフラを攻撃するだけで、可能なかぎり一般市民がまきこまれないように注意を払ってきたのだ。いままでもずっと言ってきたが、戦争中に相手の元首を暗殺するようなことをしたら世界秩序が根底からくつがえされる。だれでもがだれでもを暗殺する世界になるだろう。戦争だからこそルールは守られなければいけないのだ」


 じっさいにロシアの攻撃による過去3年間の一般人の死者数を、西側諸国やウクライナ側のメディアが発表した記事でお調べになってください。


 病院にミサイルが落ちて3人が亡くなり5人が負傷した、とか、送電線の近くに建てられていたアパートの住人2人がドローンによる攻撃をうけて死亡した、などなど。


 ウクライナ側はロシア軍が一般人をまきぞえにしたとたん、鬼の首をとったかのようにその数字をあげて大騒ぎしていますけれど、これをイスラエルによるパレスチナのひとびとの大量虐殺と比較してみてください。


 それ以上に、いまウクライナ軍がロシア国内で行っている爆破作戦をふりかえってみたらよいと思います。


 これについては中国の習近平主席もおなじようなコメントを発表しています。

「アメリカの行ったことは世界秩序を乱す行為である。ゆるされることではない」と。


 プーチン大統領や習近平主席が立派なわけでも人格がすぐれているわけでもありません。

 日本の首相や高官たちも、みなさん、そう感じていることでしょう。


 今回のようなことをすると国そのものがテロリスト組織と変わらなくなるのです。

 ようするに「テロ国家」と呼ばれてもしかたがなくなるのです。

 その行為はまさに国家規模のテロリズムというしかありません。


 そんな非難には耳を貸さないアメリカ。

 法に従いながら倫理・道徳を守るという姿勢そのものを『無化』するかのようなアメリカ。

 ルールなどどこにもない弱肉強食の国際社会。

 そんな新しい時代がおとずれたのだといわんばかりのアメリカ。


 俗な表現になりますが、アメリカは「焼きがまわった」というか「お尻をまくった」というよりも、なりふりかまわないものを感じさせられます。


 いったんここまで倫理・道徳が無視され、大国間における力関係のダイナミクスをも無視して、「あの国の石油が欲しいから奪っちゃいます」「あの国の元首は邪魔だから排除しちゃいます」ということになると、大学で講義される地政学や国際政治学という学問体系ですらもがぜんぶ『無化』されてしまうようにおもえてなりません。


 アメリカはまるで巨大な戦車にまたがったわがままなイジメっ子そのものです。


 終焉が近いのかもしれません。



【泥沼の夜明け】

 とはいうものの、ほんとうの問題はこれからです。

 ほんとうの戦争は1月3日以降からはじまったのです。


 アメリカがベネズエラを運営するといっても、市民運動やゲリラ活動による抵抗を受けはじめたときにはどう対処するのでしょうか。

 それともベネズエラのひとびとは「マドゥロがいなくなってよかった」と胸をなでおろすのでしょうか。

 それとも「アメリカにさからっても無駄だ」と頭をたれておとなしく従うのでしょうか。


 ひとつの国を統治して運営するためにはイラク戦争のときと同じように地上軍が入りこまなければいけません。

 警察の代わりをしなければいけませんし、不安定な政情を鎮圧しなければいけません。

 ひとびとの信頼を得なければいけませんし、ときには食料を調達し、物流を回復する手助けをしなければならないことだってあるでしょう。


 勝利の味を楽しめるのはほんの数日間で、これから先には山積みの問題が待ちうけています。


 ベネズエラは広大な国土です。

 国境はあいまいで、守られてもいません。

 コロンビア・ペルー・ブラジルなどから反米組織が入りこんでくるのはかんたんです。


 しかもイラクやアフガニスタンのような砂漠・山岳地帯とはちがいます。

 キャピバラだけではなくワニや蛇などが生息するジャングルと広大な湿地帯がひかえています。


 それにベネズエラの石油の確認埋蔵量は世界一位かもしれませんが、あくまでもヘビー原油(heavy crude oil)で精製はむつかしく時間と労力を要して、しかも価格は安いらしいのです。

 アメリカのドル建て経済のなかでどれくらいの価値になるのかははっきりとはしません。


 とくにサウジアラビアがブリックスに正式に加盟したあかつきには、ベネズエラの石油から生み出される価値はどのように変化するのでしょうか。


 アメリカは、これから先、世界のいたるところで CIA による『秘密作戦』を展開しながら『BRICS諸国』の要所要所をつぶしていくのかもしれません。


 そうすることで、ふたたびアメリカの一極支配を手にすることができるかもしれない、とやっきになっている方たちがおられるかぎり、それもしかたがありません。


 彼らの巨額の資産の増減にも深くかかわっていることでしょうし。


 ただ、忘れてならないのは、ほろびゆく文明が新たに出てきた文明に勝った例というのが歴史上ひとつもないという事実です。


 また、もうひとつ忘れてはいけないことは、そうは言っても、20世紀以前の世界には『核兵器』というものがなかった、という事実です。


 そして、このふたつの振り子の動きと距離とが、いま、わたしたち人類の未来を方向づけているようにおもえてなりません。




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