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世界最終戦争への雑感 ② | イスラエルが停戦合意だなんて冗談でしょ

  • 執筆者の写真: 香月葉子
    香月葉子
  • 10月12日
  • 読了時間: 22分

更新日:11月17日



正直な公務員は政治の世界では金持ちになれない。

- ハリー・トルーマン米国大統領 -

An honest public servant can't become rich in politics.



停戦だからこそ攻撃いたしま〜す

 今年2025年の7月に公開したエッセイ『イラン・イスラエル戦争の原因と背景 | 不可視の洗脳と最終戦争への序曲』のなかでつぎのように書きました。

「なにしろイスラエルは『停戦』破りの名人ですから。それどころか『停戦』を匂わせておいて、その話し合いをするから、と告げたあとに、たとえば2024年の4月にはシリアのダマスカスにあるイランの領事館を爆撃し、そこに集まっていたイランの高官たちを皆殺しにするというような『だまし討ち』が得意ですから」

 また、ご存知のように、この9月にもおなじことがありました。

 イスラエルによる空爆によって、和平交渉におもむいたハマスの幹部2人とカタールの警備員数人が、カタールの首都ドーハにおいて殺害されたのです。

 それだけではありません。

 2025年10月12日現在、ガザに停戦が発効されたのとほぼ同時に、反イスラエル民族組織のヒズボラの拠点をたたくという理由で、南レバノン地域にかつてないほど激しい空爆を開始しています。

 それがネタニヤフ政権です。

 また、停戦が発効されたというニューズを耳にして祝っているパレスチナのひとびとと、アル・ラシッド通りを歩いてガザ市へ帰ろうとしていたひとびとにたいして、イスラエル国防軍は戦車やドローンや戦闘機による攻撃をくわえています。

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 ネタニヤフ首相が「停戦の発効を延期する」と発表したことがその原因でした。

 いつものように、ひとを騙すときに見せる彼独特のあの「にんまり」(duper's delight)を浮かべて。

 これからの問題は停戦合意のための会議をどこの国でひらくかということです。

 どの国がその場所を提供するのかという問題がひかえています。

 だれが出席するのかという問題も。

 下手をするとその国の高官たちまでもがイスラエルの『テロ攻撃』を受けて殺されてしまう可能性があるからです。

 なにしろ停戦合意を反イスラエル組織のリーダー暗殺のために利用するのはイスラエルの得意技ですから。


まずはトランプ大統領の顔を立ててあげなくちゃ

 イスラエルにとって、いえ、ネタニヤフ首相にとって、ハマスとの『停戦』とはつぎのようなニュアンスをもっているとおもいます。

「アメリカの連邦議会はすでにわれらイスラエルの手の内にある。イスラエルロビー『AIPAC』のおかげだ。だが、いちおうトランプ大統領の顔も立ててやらないといけないからな。あのナルシストで誇大妄想的なエゴをかかえた商売人の気分をそこねるとすぐにだれかをクビにする。われわれの息のかかったマーク・ルビオやJ.D.ヴァンスを切られるとめんどうくさい。ま、停戦期間くらいは、虐殺する人数と爆撃する回数をほんのすこし減らしておけばそれでいいだろう」


わたしはイスラエルの歴史に残るだろう、うん

 過去40年のあいだネタニヤフというひとは『大イスラエル』(Greater Israel)を実現するのは「わたしの使命である」(It’s my life’s mission.)と言いつづけてきた方です。

 彼の頭のなかにパレスチナ人との『二国家解決』などは存在しません。

 彼にとってパレスチナ人は除去されるべきものであって隣人としてあつかえるものではないのです。

 もともと「人間以下」の穢(けが)れた生き物なのですから。

 パレスチナ人などは、大量虐殺するか、ひとり残らず追い払うのがいちばん。

 80%におよぶイスラエルの国民とおなじように、彼はそう考えているはずです。

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 追い払ったパレスチナ人はエジプト・ヨルダン・カタールにおしつけたらいい、と。

 パレスチナ人というような『不浄の民』はきれいさっぱりこの地上から消し去るべきだ、と。

 これがネタニヤフ首相の本心です。

 イスラエルは民族浄化(ethnic cleansing)をおこなっているのです。

 これに変わる選択肢はネタニヤフ首相のなかにはありません。

 あとはただ「時間稼ぎ」と政治的「茶番劇」をつづけるだけのことであって、だれを脅し、だれを騙し、だれの顔を立てつつ目的を達成するのか、という計算だけが働いているはずです。


中東全域を血に染めても戦争はがんばって続けま〜す

 ところで、現在、イスラエルの国民のうち、パレスチナ人との平和的共存は可能だと信じていたひとびとの数は激減しています。

 わずか21%を占めるのみになってしまいました。

 ある意味、ネタニヤフ首相にとっては世論が追い風になってくれるかもしれません。

 と言いたいところですが、じつはそれどころではないのです。

 国際刑事裁判所からは『戦争犯罪人』としての容疑をかけられていますし、国内でも汚職(とくに賄賂事件)で追いつめられていまして、いつ逮捕されて監獄に入れられてもおかしくない状況なのです。

 たとえば、去年ストリーミングされたドキュメンタリー映画『The Bibi Files』(邦題は『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』)をごらんになってもおわかりのように、逮捕されるのはほとんど時間の問題のようです。

 ところがイスラエルはずっと『国家非常事態宣言下』にあります。

 新たな首相を選ぶことはできませんし、彼を引きずりおろすこともできません。

 周囲のアラブ諸国と戦争をつづけているあいだ彼を裁くことはできないのです。

 つまり戦争をつづけているかぎりネタニヤフ首相の地位は安泰なのです。

 彼は戦争を長引かせることによってみずからの政治生命をつないできた方なのです。

 彼にとっての『平和』とは文字通り『牢獄』以外のなにものでもないのかもしれません。


パレスチナ人の人質の数におどろいてはいけましぇ〜ん

 ハマスが決行した2023年10月7日のイスラエルに対する急襲によって1,200人のイスラエル人が殺され、251人のひとびとがハマスの人質になりました。

 イスラエル政府によりますと、いままでハマスが解放してきた人質をのぞいて、現在、いまだに捕えられているのは48名で、そのうち28人は死亡しており、残りの20名は生きているのではないかということです。

 停戦合意が成立しますと、彼らは自由になるはずです。

 また、イスラエルの監獄で終身刑をうけていた250名のパレスチナ人と、22人の未成年者をふくむ1,722名の勾留者も解放されるのではないかとみられています。

 ただし、現在まで、イスラエルは毎年600人から700人近い子供たちをとらえ、起訴することもなしに、違法に軍の収容所に拘留してきました。

 たとえば、2000年から2023年までのあいだに、12歳から17歳までのパレスチナの子供たちの1万2千人がイスラエルの軍の収容所に拘留されました。

 なかには20年以上も収容所生活を強いられることになった子供たちもいたようで、いまではもう30代の大人になっているはずです。

 それでもガザでこの2年間に殺された2万人におよぶ子供たちにくらべれば、まだ生きているだけマシだ、と考えなければいけないのでしょうか。

 残る問題は遺体です。

 イスラエル政府の場合はハマスとちがって収容生活で亡くなったパレスチナ人の遺体を返してくれません。

 例外的にもどってきた遺体の損傷があまりにも酷かったため、かつてドイツのナチス国家時代に医師たちがおこなったような生体実験をしていたからではないか、とか、拷問や輪姦によって殺されたのではないか、など、さまざまな憶測が乱れ飛んでいますけれど、それでもイスラエル国防軍はパレスチナ人に彼らの仲間の遺体を引き取らせないかもしれません。


まぁ…自国民を殺して相手のせいにするのは得意中の得意ですから

 西側諸国の大手メディアは10月7日のハマスによる急襲を『テロリスト集団による攻撃』としていますけれど、国連の武器監査官だったスコット・リッター氏や元英国の外交官だったアラステア・クルック氏が述べているように「あれは反イスラエル民族組織ハマスによるパレスチナ解放のための抵抗運動(レジスタンス)のひとつではないか」ということでした。

 つまりパレスチナ人にとっては「やむをえない手段のひとつ」だったのだ、と。

 また、そのうち大手メディアでも取りあげられるでしょうけれど、10月7日に亡くなったイスラエル人1,200名のうちの6割から7割のひとびとは、イスラエル国防軍(IDF)が使用した攻撃用ヘリコプター『アパッチ』(AH-64)による犠牲者だったということがわかってきました。

 2年前、真っ黒に焼けこげた何十台にもおよぶ自家用車の写真を見せられたとき、元英国秘密情報部MI6で働いていた方は「アパッチから発射されたヘルファイア対戦車ミサイルが使われたことは明らかだ」というコメントを残していました。

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 あのように広々した野外コンサート会場で、しかもイスラエル人の観客とハマスの兵士が入り乱れている状況下で、空中からロケット弾やチェーンガンを撃ちまくったらどんなことになるのか想像するのはそれほどむつかしいことではない、とも述べていました。

 つまり犠牲者のほとんどはイスラエル国防軍の誤射(フレンドリー・ファイア)によるものだということが明らかになってきたのです。

 ネタニヤフ首相は自国民を殺してしまったのです。

 とはいっても、それほど驚くことではありません。

 過去にはイランの首都テヘランで暮らしているユダヤ人地域で爆弾を破裂させ、それをアラブ人のテロリストのしわざにしたという経歴の持ち主なのですから。

 彼らをイスラエル本国へ移住させたかったから、というのがその理由でした。

 偽旗作戦(false flag)にかけてはイスラエル諜報特務庁モサドの右に出るものはいません。

 米国のCIAと英国のMI6の影すら薄くなるほどです。

 10月7日の事件に関して、現在わかっているところでは、いちどの充填で1,200発の30ミリ弾を連射できるアパッチヘリコプターのチェーンガンが空になっていたということがわかっています。

 あのコンサート会場でいったいどんな戦闘がくりひろげられたのか、そして、逃げまどうひとびとはどんな恐怖におそわれていたのか、外部の調査団による精細な解析がのぞまれています。


ほんとうのテロリストって誰なのか…わかってる?

 国家がもたらす暴力は戦争であり、弱者による暴力はテロリズムである、とはよく言われます。

 ようするに「戦争は強者による暴力。テロリズムは弱者による暴力」なのだと。

 それとは別に、イスラエル国防軍には『ハンニバル指令』(Hannibal Directive)という悪名高い指令があります。

 ウィキペディアをお読みになるといろいろと書かれてありますけれど、ひとことで言えば「ハマスの捕虜にされそうな者がいたら、いっそのこと殺したほうがよい」という指令です。

 なぜなら、将来、彼らはパレスチナ人の捕虜と交換する材料に使われるだろうから、というのがその理由です。

 イスラエルという国には、民主主義にとってもっとも大切な要素のひとつ『寛容さ』(tolerance)が足りないように感じられてしかたがありません。


オバマ元大統領でさえもらったのだから…うん

 忘れてはいけないのは、今回の停戦合意は米国が提出したプランであってネタニヤフ首相の本意ではないということです。

 ふたりで共に考えてこの結論に達したという発表は、トランプ大統領のメディア受けを狙ったコメントでしかないのかもしれません。

 世界に平和をもたらそうとしている大統領、というイメージを売り込むために。

 もしくは、ほんとうに赤ん坊のようなナイーブさでネタニヤフ首相という人物を信じているのか、このどちらかです。

 じっさいにネタニヤフ首相に会った方々にいわせると、話がお上手で、ジョークもお上手で、柔和な笑顔がとくに魅力的な方だそうですから、彼がおこなってきた悪魔的な行為をフッと忘れてしまったりするのかもしれません。

 距離の近さは客観的な視点をくもらせてしまう原因になりやすいのは、みなさんも日々の生活のなかでお気づきになっていることだとおもいます。

「あんなイイ人があんな犯罪をおかすなんて信じられません」とテレビでコメントするのは、たいてい犯人と知り合いだった近所の方々です。

 ノーベル平和賞?

 あれは作家のゴア・ヴィダルが言ったとおりの「賞」ではないでしょうか。

 ゴア・ヴィダルはジャクリーン・ケネディをつうじてジョン・ F・ケネディとも親族関係になった方ですが、オバマ大統領が平和賞を授与されたときに次のようなコメントを残しました。

晩年のゴア・ヴィダル
晩年のゴア・ヴィダル

「オバマ大統領は8年間という任期のなか、歴代の米国大統領のなかでもっとも多くの戦争を始めた人物であり、もっとも中東の一般市民を殺害してきた人物であり、なかでも、もっとも子供たちの殺害に手を染めた人物だ。しかもテロリストと疑われた容疑者にたいしてはいっさいの裁判をすることなくその場で撃ち殺せという反アメリカ的な違法を認めた最初の大統領でもある。この人物に平和賞を与えたのはおどろきだ。ノルウェー人にもブラックユーモアのセンスがあるという事実は、だれにノーベル平和賞を与えたかを見れば明らかだろう」

 お金と権力はたっぷりと手に入れたので、あとはノーベル平和賞という名誉を手にして歴史に名前を刻みたい、と願うトランプ大統領のお気持ちはわかります。

 ただ、いま大切なのはそれとは別のことです。

 ハマスが人質を全員手放したら、交渉のためのカードをすべて捨て去ったということになります。

 そうなると、もうイスラエルのやりたい放題になるはずですし、さらに武装解除まで要求されたとあっては、ハマスにとって「自殺しなさい」と言われているのと変わりはありません。

 米国が「この停戦に合意しなければハマスのメンバーを皆殺しにする」と脅したせいだ、などと解説していた海外の方たちもいますけれど、わたしは苦笑してしまいました。

 はじめから自分の命を捨てて戦っているハマスの兵士たちにとって、この世に怖いものなどないはずです。

 神の審判をうけ、アラーの神の怒りを買って地獄に落とされること以外には。

 それに、武装解除といわれても、それがじっさいに行われたのかどうか、それをだれが証明できるのでしょうか。

 それを保証する手段はどこにもありません。

 ハマスが武装解除したと言っても、どこかにちゃんと武器を隠しもっておくかもしれません。

 そしてイスラエルは、ハマスがじっさいに武装解除していたとしても、「彼らはいまだに武器を保持していて武装解除はしていない」という非難をはじめて、ふたたび攻撃と虐殺をはじめる理由にするかもしれません。


あのぅ…帰るお家がないんですけど…

 それに、パレスチナのひとびとがガザ市にもどれるように尽力するとは言っても、すでにガザの95%の建物は破壊されて瓦礫の山となっています。

 その瓦礫を除去するためだけに25年という歳月がかかるのだそうです。

 つまり2050年までは人が満足に暮らしていけるガザ市はもどってこないということです。

 しかもガザの72%の病院は破壊されてしまいましたので、なにかあったときに治療を受けることのできる場所は限られています。

 トランプ大統領の側近がつくりあげた提案はどれをとってみても現実に根ざした具体性がありません。

 すべてが夢物語であり、すべてがメディア受けを狙った口先だけの好意(リップ・サーヴィス)だと言われても返すことばがないはずです。

 とうぜんのことだとおもいます。

 なぜならパレスチナのひとびとが自分の故郷にもどることができなくするために、ネタニヤフ首相は最初からガザ市を破壊しつくという計画を立てていたのですから。


この停戦合意が意味するものって…なぁ〜に?

 今回の停戦合意から見えてくるのはなんでしょう?

 ひとことで言いますと、ハマスの完全勝利、だとおもいます。

 あの10月7日の事件がなければ、わたしたちはパレスチナの存在すら知らず、70年のあいだイスラエルの占領下における『天井のない監獄』に閉じこめられて生きてきたパレスチナのひとびとの暮らしも、彼らの苦しみも知らなかったでしょう。

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 あの事件後からはじまったイスラエル国防軍によるガザ市にたいする終わることのない空爆と破壊。パレスチナのひとびとの大量虐殺。計画的にひきおこされた飢餓。男性の股間と膝頭を狙い撃ちにしてパレスチナ人の種を断ち、人生が変わるほどの損傷をあたえる、というイスラエル国防軍のスナイパーたち。

 子供を殺すときはかならずヘッドショットで殺すこと、と命令され、それをなんの痛みもなく趣味のひとつのように楽しみながら子供たちを撃ち殺すイスラエル国防軍の兵士たち。

 現在、イスラエルの国民の70%が「パレスチナ人には赤ん坊をふくめて無実の者はいない。全員を殺すべきだ」と考えているというイスラエル政府による白書の結果が出てきました。

 つまりイスラエルの国民全員がある種の狂気にハマっているのです。

 社会全体がヒステリー状態におちいっているとしかおもえません。

 ドイツ第三帝国時代のドイツ国民がそうだったように。

 それらすべてがハマスの攻撃によって明るみに出たのです。

 もちろんソーシャルメディアの力もあります。

 いまではアメリカの国民の7割以上がイスラエルという国にたいして「悪」のイメージを抱いているという結果がでています。

 それだけではありません。

 世界中でイスラエルにたいする批判の声が強まっています。

 また、パレスチナを解放し、パレスチナ人のための国家を認めよう、という意見も多く聞こえてくるようになりました。

 ハマスは、ある意味、勝利したのです。

 世界のだれからも目を向けてもらえなかったパレスチナのひとびとの苦しみに光をあてることに成功したのです。

 また、イスラム教を信じる反米・反イスラエルの民族組織はどれもこれも『テロリスト集団』だというイメージすら、いま、ゆるやかではあっても変えることに成功してきているようです。

 しかも停戦合意が成立したあかつきには、ふたたび国外からのメディア関係者がガザ市に入ることがゆるされるでしょう。

 そうなると、じっさいのガザ市はどうなっているのか、パレスチナのひとびとの生活はどうなっているのか、といった真実が日の目を見るようになります。

 これはネタニヤフ首相がもっとも恐れていることです。

 だからこそジャーナリストたちを追い払うだけではなく、「ごめんごめん、あれは誤爆だった。わざとじゃないからね。あはは」と謝罪しながら殺害してきましたし、諸外国のドローンは、たとえそれが撮影のためのものではなくても、いっさいガザ市の空域に入ることはゆるされない、として空爆の結果を隠しつづけてきたのです。

 たぶんそういう出方をしてくるだろうことをハマスはすべて予測していたのだ、とアラステア・クルック氏や政治経済学者でコロンビア大学のジェフリー・サックス教授などは述べていました。


明らかに勝敗がついてるのに…まだまだプロパガンダは続くの?

 戦略的にハマスは勝ったのです。

 盲目だったわたしたちの目を開かせたのですから。

 つまりは、パレスチナをイスラエルの占領から解放する、というもっとも重要な目的のひとつは達成したのです。

 米国の最新兵器と爆弾のテスト場になっているといわれたガザ市は45平方キロメートルで、江戸川区よりもほんのすこし狭いほどの広さしかありません。

 そんな場所にイスラエルという国家は日夜爆弾を落としつづけ、最先端の情報システムと最新鋭の兵器に守られたイスラエル国防軍の兵士を送りこみ、ハマスという民族主義的軍事組織を壊滅させようと躍起となってきました。

 しかも2年以上ものあいだです。

 にもかかわらずハマスを壊滅させることはできませんでした。

 たったひとりの人質を解放することすらできませんでした。

 魔術的論理を駆使したような屁理屈をこねて、なんとかイスラエルに軍配をあげようとしてみても、残念なことにハマスが勝利したという事実を変えることができません。

 第二次世界大戦当時の提督や将軍たちが生きておられたら「恥を知れ、恥を」とネタニヤフ政権を叱咤したでしょう。

 そのくらいに『情けない』ありさまなのです。イスラエル国防軍の『体たらくぶり』がきわだっている戦闘だったのです。

 じっさい、今回の『停戦』はイランとイスラエルの『12日間戦争』のときとおなじように、ネタニヤフ政権が追いつめられた結果だという見方が米国の国際政治学者さんや元国防総省のアドバイザーだった方たちの大半をしめています。

 ふたたび米国に仲裁に入ってもらって顔をたててもらわなければいけなくなったネタニヤフ首相の内心はおそらく次のようなものではないかと推測されています。

「ちょ、ちょっと待って。タイムアウトお願いしまぁ〜す。国内では人質を早くとりもどせという抗議デモがひろがってるし、わがイスラエル国防軍の兵士たちにしても、ハマスの『忍者的』攻撃による戦死者と負傷者の数が増えつづけている。そのせいで、息子たちを亡くした家族の声が国内のソーシャルメディアにも流れはじめている。ここはなんとか戦いを一時停止して『仕切り直し』に近いことをして誤魔化したほうがいいかぁ…。ま、そのあいだに兵器と兵士を入れ替え、軍事力を増強し、米国からはさらなる支援金をもらって、ええっと…この『停戦合意』のニュースで世界が湧いているあいだにイエメンとヨルダンを攻撃してフーシとヒズボラを叩きつぶせばいい。なにしろ真の目的はイランをぶっつぶしてわれわれの望む通りの政治・経済・外交政策をおこなう政権をすえることなのだから。『停戦合意』と『和平交渉』という前座(サイドショー)で世界中のバカどもを楽しませ喜ばせているあいだに、イランとの全面戦争の準備は整うだろう。うん。じゃ、まずはそんな感じで『すみましぇ〜ん、ちょっぴりタイムアウトをお願いしまぁ〜す』と優等生ヅラをしておこうか。いちおう西側諸国のメディアにたいしてはいつもどおり『イスラエルの完全勝利。アラブ人テロリストたちの敗北』というプロパガンダを流しておくけどね。あはは」


イスラエルの敗北って、とうぜんのことだったの?

 たしか2年前でしたか、10月7日のハマスによる事件発生後すぐに、YouTubeのインタビューにおいて「イスラエル軍は世界一腐敗した弱い団体で、ほんとうのところは「国防軍」という名を冠していることすら恥ずかしいかぎりだ」と厳しい批判をしていたのは元米国海兵隊少佐で国際連合の武器主任査察官だったスコット・リッター氏(※)でした。

 第一次トランプ政権のチーフアドバイザーで政治評論家でもあるマグレガー大佐はつぎのように説明しています。

「何十年ものあいだ年端もいかないパレスチナの子供たちをこづきまわすことに躍起となってきた兵士たちと、自分たちの民族の存亡をかけて戦っているハマスとをくらべること自体が無意味なのです。ソーシャルメディアで『イイね』をもらって喜んでいるイスラエルの兵士と、彼らに殺された両親や子供たちや友人や恋人に自分の命をささげるつもりで戦っている兵士を比べることはできません。比較すること自体がまったくのナンセンスなのです」

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 この2年のあいだにイスラエル国防軍の兵士たちは、715人が戦死し、2,951人が負傷。

 くわえて70名の警察官が殺されました。

 どんな戦闘に参加して、どのような状況下で亡くなったのか知ることさえできませんけれど、この方たちはもちろん戦争の犠牲者です。

 ただしパレスチナの一般市民の70,000人に近い死者数には遠くおよびません。

 しかもそのなかの半数近くは女性と子供たちです。

 イスラエル国防軍は、どこからともなく現れてどこに消えるのかもわからない『亡霊』や『忍者』と呼ばれて恐れられているハマスの兵士を殺すかわりに、パレスチナの一般人、とくに女子供を殺害してきたのです。

 それでも10月7日の急襲がなければ、イスラエルという国、ネタニヤフという人物が支配する国がどんな国なのか、また、シオニズムの圧倒的な影響下にあるイスラエルの国民がどんな考えでいるのかを知る機会はなかったでしょう。

 いままでの長い年月がそうだったように、わたしたちの目に見えないところでパレスチナのひとびとは自由を奪われ恐怖にさらされながら人生を終えていったはずです。

 いくら声をあげても誰にもとどかず、抵抗したらテロリストとして勾留され、米国とイスラエルという圧倒的な強者が支配する空の下、世界のだれからも注目されないガザという狭い場所で生きてきたのがパレスチナのひとびとなのです。

 無視されつづけてきたのです。だれの視界にも入らない『不可視の存在』として。

 けれども、いま、世界中でイスラエルにたいする批判の抗議活動がおこっています。

 国際連合においてもますます孤立してゆくイスラエルを見ることができます。

 世界のさまざまな国々で生活しているユダヤ人のひとびとをもっとも危険にさらしているのは、じつにイスラエルという国そのものなのです。

 ネタニヤフ首相は、いま、必死です。

 みるみる地に落ちてゆくイスラエルとシオニストのイメージをなんとか取りもどそうと死に物狂いになっています。

 ハマスはみずからの命をかけてイスラエルという国の「狂気」「残虐な行為」を世界中に知らしめたのです。

 イスラエルの正体を暴いたのです。

 というよりも、イスラエルがみずから墓穴を掘ったのかもしれません。

 米国と英国が所有している圧倒的なメディアとプロパガンダのパワーに屈することもなく、ソーシャルメディアと勇気あるジャーナリストたちの情報と事実をもとに、この太陽の光のなかに敵の本性をさらけださせたことはまちがいありません。

 戦略的にはあきらかにハマスが勝利したのです。

 わたしたちの目をパレスチナへ向けさせること、いえ、それ以上に、わたしたちの意識そのものを変えさせることに成功したのですから。

 このことだけは歴史に刻んでおいたほうがいいかもしれません。



※《註》 Wikipedia(ウィキペディア)をご覧になると「性犯罪前歴者」と書かれていますけれど、じっさいにはスコット・リッター氏は告訴もされていませんし、他の事件に関しても事実がかなり食いちがっているところがあります。

 とはいっても、政府側の台本・筋書き(ナラティブ)にたいして、それを打ち砕くような証拠と知識をもっているだけではなく、かつ衆目をあつめているような方にたいしては、いつもどおりにその方の評判と信用を地に落とすような『キャラクタ暗殺』をおこなうのが既成勢力(the establishment)の常套手段のようですから、あまり気にはとめませんでした。

 スコット・リッターという方については、これだけでひとつの長い記事が書けるほど調べたことはありますけれど、けっきょくは膨大な資料を読んだだけで書くところまでいきませんでした。

 それはともかく、ロイター通信が報告しているようにWikipediaは2005~2006年ころからCIAとFBIが編集をしはじめています。

 これについては以前『新型コロナウイルス騒動…』という記事のなかに書いたおぼえがあります。

 そのため、いましがた述べたように、米国政府がわたしたちに与えてくれる事件の様相出来事の真相(ナレティヴ)、および西側諸国の大手メディアが流している情報や解釈とは異なる視点や事実を提出している方たちにはとても『いじわる』『バイアス』のかかった内容になっているのがほとんどですので、ちょっぴり眉にツバをおつけになりながらお読みになったほうがいいかとおもいます。

 ただ、Wikipediaはある団体やコーポレーションや組織のCEOや中心人物がどういう経歴の人で、とか、その所有者はだれで、とか、その団体やコーポレーションはどんな子会社(サブシディアリ)をもっていて、だれが補助者で献金者なのか、とか、その団体や組織自体はどの政府機関とつながっているのだろうか、あるいはある政府機関によってつくられたサブレーベル会社のような団体なのだろうか、などといったことはおどろくほど簡単に追いかけていけますので、便利なところもあります。




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